グローバル化が着々と進む現代は、日本だけにとどまらず海外を視野にした教育改革が始まっています。
お子さまの将来に海外も視野に入れた進学プランをお考えなら、国際バカロレアについて聞いたことがあるのではないでしょうか。または「国際バカロレアってインターナショナルスクールのこと?」という方も、ぜひご一読ください。
この記事では世界共通の学習プログラムである国際バカロレアについて分かり易く解説をいたします。
国際バカロレアとは
国際バカロレアは”International Baccalaureate”(略称:IB)と呼ばれ、世界中どこにいても同水準の教育を受けることができ、必要条件を満たせば世界各国の大学への入学資格を得られる学習プログラムのことです。
非営利組織の「国際バカロレア機構(IBO)」がスイスのジュネーブに本部が置かれています。
本来国際バカロレアは、国をまたいで仕事をしなければならない政府関係者やビジネスパーソンの子どもたちに教育を施し、将来スムーズに大学へ進学できるように考え出されたものでした。
世界には先進国もあれば途上国もあります。「高等教育課程」を卒業しても、基本水準に満たない学力しか身に着けることができない国もあります。
そういった不均衡を解消するのが、綿密に計算された国際バカロレアの教育プログラムなのです。
ちなみに日本は先進国であり教育水準も低くないので、国内の一般的な一条校(国の指定する教育基準をクリアした学校)の高校を卒業すれば、海外の大学進学の資格になります。
それでも、国際的な感覚を身に付けるという点で、国際バカロレアは魅力的な教育プログラムです。
複数の教科間に関連性を持たせながら知識の探求ができ、地球規模で物事が考えられることを目指しています。
英語(またはフランス語かスペイン語)での教育はDP(高等教育課程)以降で、日本語DPを設けている学校には日本語で受講できる科目もあります。
3歳から16歳までの初等・中等教育課程では、基本的にどの言語でも受けられるのも、インターナショナルスクールとの大きな違いでしょう。
国際バカロレア機構から承認された教育機関は「国際バカロレア認定校」と呼ばれ、2023年6月現在、国内に200校以上が存在しています。
国際バカロレアの目的
国際バカロレアの目的(misson)は、次のように宣言されています。
「国際バカロレアは異文化理解と尊重の精神を通じて、より良い、より平和な世界を築くことに貢献する。さらに、探究心、知識、思いやりに富んだ若者の育成も目的としている。
この目的を達成するため、私たち団体は学校・政府・国際機関と協力し、チャレンジ精神に満ちた国際教育プログラムと厳格な評価を開発し続ける。
このプログラムは世界中にいる私たちの学習者が、積極的で相手を尊重する思いやりの心を持った人物像となることを促すものである。」
引用|国際バカロレアOur mission – International Baccalaureate® (ibo.org)
異文化理解を通して知識・チャレンジ精神・思いやりの心などを育むのが、国際バカロレアの特徴です。
国際バカロレアの求める学習者像
国際バカロレアは、学業での成功だけに留まらず、学習者それぞれの人としての在り方についても深く追求します。以下の学習者像は、IB認定校が価値を置く人間性を表したものです。
IBにおける理想的な学習者像(The IB Learner Profile)
- Inquirers|探求する人
- Knowledgeable|知識のある人
- Thinkers|考える人
- Communicators|コミュニケーションができる人
- Principled|信念がある人
- Open-minded|心を開く人
- Caring|思いやりのある人
- Risk-takers|挑戦する人
- Balanced|バランスのとれた人
- Reflective|振り返れる人
国際バカロレアの4つのプログラム
国際バカロレアは、3歳から19歳までを対象に年齢に応じて4段階の教育プログラムを提供しています。
4段階すべての履修でも、ひとつだけの履修でもかまいません。
ただし、大学入学資格は高等教育課程のDPを履修しテストに合格しなければ与えられません。
すべての国際バカロレアのプログラムを通して、学習者は常に以下のことを要求されます。
- 批判的思考(クリティカルシンキング)
- 正しい質問をする思考
- コミュニケーションスキル
- 分野を超えて考えるチャレンジ性
- 自己管理と学問的達成
それぞれのプラグラムは学習者の発達段階に合わせて考案されており、以下のような特徴があります。
PYP:初等教育プログラム|3歳-12歳対象
PYP(Primary Years Programme)は初等教育プログラムのことで、日本の保育園から小学校の教育課程に相当しています。
精神と身体の両方を発達させることを重視したプログラムです。
PYPでは教科横断的テーマを中心にして、6つの教科を勉強します。
<テーマ>
- Who we are.(わたしたちは誰か)
- Where we are in place and time.(私たちはいつどこにいるのか)
- How we express ourselves.(私たち自身をどう表現するか)
- How the world works.(世界の仕組みとは)
- How we organize ourselves.(どうやって自分たちを組織しているか)
- Sharing the planet.(地球を共有するということ)
<教科>
- 言語
- 社会
- 算数
- 芸術
- 理科
- 体育(身体・人格・社会性の発達)
学習者は自分の学習に主体性とオーナーシップを持って取り組みます。
探究を通して学び、そして自分自身の学びを振り返ることで、知識、概念的な理解、スキル、そしてIBが理想とする学習者像の特性を身につけます。
このプログラムはどの言語でも受講可能です。
MYP:中等教育プログラム|11歳-16歳対象
MYP(Middle Years Programme)は中等教育プログラムと呼ばれ、日本の中学校にあたります。
こちらも、受講の際の言語は問いません。
5年のプログラム期間にわたって8教科に取り組みます。
- 言語と文学
- 言語の習得
- 個人と社会
- 理科
- 数学
- 芸術
- 保健体育
- デザイン
MYPでは、PYPの「6つのテーマ」に代わるものとして「5つの相互作用エリア(The Five Areas of Interaction (AOI))」が提案されています。
これらは、特定の教科に縛られず横断的に学ぶために掲げられ、常に念頭に置いて取り組むテーマとなります。
- Environments(多様な環境)
- Human Ingenuity(人間の創造性)
- Health and Social Education(健康と社会性の教育)
- Community and Service(コミュニティと奉仕)
- Approaches to Learning(学習の方法)
DP:ディプロマプログラム|16歳-19歳対象
DP(Diploma Programme)は国際バカロレアの要と言われる2年間のプログラムです。1968年に国際バカロレア機構が設置された際、最初のプログラムとして提供が開始されました。
DPを取得するには、教育課程中に「選択した6つの教科(各グループから原則1教科ずつ)」と「3つのコア(論文・探求・活動)」をクリアし、さらに最終試験にも合格しなければいけません。
さらに、6つの教科はHigher LevelとStandard Levelに分かれており、DP取得を目指すにはHigher Level科目を最低3つ取得する必要があります。
DPの資格を保有すれば、世界でトップレベルの大学に通うことができると言われています。
それだけにカリキュラムは複雑です。PYPやMYP(初等部や中等部)を学んでいなくても履修は可能ですが、希望者がだれでも履修できるわけではなく、英語や面接などの入学試験を用意している学校もあります。また、DPを期間途中から履修することは原則できないことになっています。
プログラムは、英語、フランス語、スペイン語のうちのどれかで実施されます。
ただし、日本には日本語DPと呼ばれる独自の国際バカロレア資格があり、これは国際バカロレア機構と文部科学省が共同で開発したものです。
日本語DPでは、6科目のうち、4科目を日本語で履修することができます。
日本のIB認定校で日本語で受けられる科目(日本語DP)は太字です。
6つの教科グループ | |
グループ1 | グループ2 |
言語と文学(母国語) 科目名: 「言語A:文学」 「言語A:言語と文学」 「文学と演劇」(Standard Levelのみ) | 言語習得(外国語) 科目名: 「言語B」 「初級言語」(Standard Levelのみ) |
グループ3 | グループ4 |
個人と社会 科目名: 「地理」「歴史」「経済」 | 理科 科目名: 「生物」「化学」「物理」 |
グループ5 | グループ6 |
数学 科目名: 「数学:解析とアプローチ」 「数学:応用と解釈」 | 芸術 科目名: 「音楽」「美術」「ダンス」 |
コア | ||
EE Extended Essay 課題論文 | TOK Theory of Knowledge 知の理論 | CAS Creativity/Activity/Service 創造性・活動・奉仕 |
個人研究に取り組み、日本語の場合は8,000文字の論文にまとめる | 知識の本質をテーマに、クリティカルシンキングを養い主体性を身に着ける。 最低100時間の学習。 | 創造性を育むために、芸術やボランティアなど体験的な活動をする。 |
3つのコアはすべて日本語で履修が可能です。
コア科目の存在はIB教育理念に基づいた大きな特徴と言えるでしょう。
国際バカロレアの最終段階であるDPでは以下のような学習者の育成を目指しています。
- 幅広く深い知識を身につける
- 身体的、知性的、情緒的、倫理的に優れている
- 少なくとも2カ国語を理解する
- 多様な文化理解
- 伝統的な学問が秀でている
- 知識の本質を探求する
PYPとMYPそしてDP、3つのプログラムはそれぞれが確固たる理念を持ち、国際バカロレアの求める学習者像の特性を伸ばせるようにデザインされています。
そのため、PYPとMYPを受講してきた生徒であれば、DPの課題にも十分対応することができるでしょう。
CP:キャリア関連プログラム|16 歳-19歳対象
CP(Career-related Programme)は、生涯のキャリア形成に役立つスキルの習得を目指すために開発されました。
DPと同じく高等教育課程に充てられており、DPの一部の科目・CPのコア科目・キャリア関連科目を履修します。日本では未展開のプログラムです。CP認定校は2023年8月現在、世界で368校あります。
CPを習得することによって以下のような効果が期待されています。
- Academically strong(学問に秀でている)
- Skilled in a practical field(実践的な分野に明るい)
- Critical and ethical thinkers(批判的で論理的思考)
- Self-directed(自主管理ができる)
- Collaborative(協調性がある)
- Resilient and determined(柔軟な発想と決断力)
- Confident and assured(自信と確信がある)
- Caring and reflective(思いやりがあり、反省ができる)
- Inquirers(探求して考える)
プログラムの総決算|最終プロジェクト
上記に挙げた4つプログラムのすべてに最終プロジェクトがあり、学習者はそれを完了させなければいけません。
この最終プロジェクトによって、これまでの勉強の成果と自身の知識、理解、スキルをお披露目することができます。
- PYP:発表会(Exhibition)
- MYP:パーソナルプロジェクト(Personal Project)
- DP:課題論文(Extended Essay)
- CP:振り返りプロジェクト(Reflective Project)
国際バカロレアの認定校
2023年6月30日の時点で、日本国内のIB認定校は候補校段階を含めて211校あり、PYPからDPまでの3つのプログラムすべてを一貫して受けられるのは14校です。CP(Career-related Programme)は日本では展開されていません。
また、世界の認定校は159以上の国・地域において約5,600校です。
日本における認定校数と国際バカロレアの教育プログラムの数(2023年6月30日現在)
認定校総数 | 候補校※ | 一条校※ | 日本語DP | |
PYP(Primary Years Programme) | 59 | 32 | 15 | ― |
MYP(Middle Years Programme) | 35 | 11 | 18 | ― |
DP(Diploma Programme) | 67 | 7 | 43 | 34 |
合計 | 161 | 50 | 73(学校により重複あり) | 34 |
※ 候補校:認定までに至っていない、準備段階にある施設のこと。
※ 一条校:国の指定する教育基準をクリアした学校施設のこと。
国内認定校の一覧はこちらからご覧いただけます。
認定校・候補校 | 文部科学省IB教育推進コンソーシアム (mext.go.jp)
日本での国際バカロレアの広がり
日本国内における国際バカロレアの広がりは例年上昇しています。
グローバル人材の育成の観点から、国際バカロレアの国内推進に働きかけを行うため、2018年に「文部科学省IB教育推進コンソーシアム」が創設されました。
文部科学省IB教育推進コンソーシアムが開催する「国際バカロレア推進シンポジウム」は、2023年3月で第8回目となりました。
このシンポジウムはオンラインで公開されており、参加希望者は申し込み終了後に送られてくるZoomURLから視聴が可能となっています。
参加費は無料で、参加対象は「国際バカロレア教育に関心を持つ学校」「教育委員会」「自治体」「教育関係者」「保護者」「学習者」等です。
国際バカロレア認定校のメリット・デメリット
国際バカロレアの教育プログラムを受けるのはいいことばかりではありません。
ここではメリットとともに注意事項も合わせてチェックしておきましょう。
国際バカロレア認定校のメリット
- 充実した英語教育
PYPとMYPは言語にこだわらないプログラムですが、国際バカロレアを導入するスクールは主にインターナショナルスクールであるため、自然と英語教育が中心となります。
- 学友と横のつながりを持てる
DPは厳しいカリキュラムが用意されていますが、その分共にやり遂げた思い出はかけがえのない絆となるでしょう。
大学進学や就職で有利に働くというIB資格を持った友人たちは、将来的に各業界のトップレベルまで昇り詰めることも予想されます。
スクール卒業後には、世界中に散らばる学友たちとともに、社会を舞台にして難問をクリアする機会が巡ってくるかもしれません。
- 海外の進学に有利
日本で一般の高校を卒業しても海外の大学への進学はできますが、国際バカロレアの資格があると、海外の進学に有利に働くのがメリットです。
条件が合えば、大学の入学試験が免除されることもあります。また、普段から外国語や討論などに慣れていれば、外国の学校環境になじみやすいです。
世界共通の大学入学資格が取得できることが特徴の国際バカロレアですが、SAT®やTOEFL®のスコアなどの条件を満たせば、日本の一般的な高校(一条校)を卒業しても海外の大学に進学することは可能です。
また、日本で非一条校であっても、国際的な評価団体(ACSI, WASC, CIS)のどれかの認定を受けた外国人学校に属していれば、大学進学ができます。
高校卒業資格や大学入学資格についての条件は、以下の通りです。
高校またはそれに準ずる 教育施設を卒業した場合 | 高校卒業資格 | 日本の大学 入学資格 | 海外の大学 入学資格 |
一条校 | 〇 | 〇 | GAP(成績表)とSAT®やTOEFL®のスコアが必要 |
国内のインターナショナルスクール (条件付き△1) | ✖1 | △1 | △1 |
インターナショナルスクール (一条校・IB認定校) | 〇1 | 〇 | 〇 |
✖1:一条校ではないため、高校卒業資格は取得できない。
スクールによっては、「高卒認定試験」を受けなければならない。
△1:認証団体(WASC・ACSI・CIS)から認定を受けたインターナショナルスクールであれば、日本の大学入学資格が得られる。海外の大学は各自問い合わせが必要。
〇1:DPを取得せず卒業しても、日本の高校卒業資格は取得できる。
さらにDPも取得すれば、海外大学の入学資格も手に入る。
日本では「国際バカロレア資格を有する者で18歳に達した者に対しては、我が国の大学への入学資格が認められる。」と定められています。海外で教育を受けた方が日本の大学に入学する際にも、国際バカロレア資格は役立つでしょう。
国際バカロレア認定校のデメリット
- 学費が高い
国際バカロレアのプログラムは、主に私立校、インターナショナルスクールで提供されています。
そのため、年間費用が200万円を超えることも珍しくなく、一般的な家庭では手が届きませんでした。
しかし近年は、国公立の一条校にも国際バカロレア認定校が現れ始めています。
倍率は高いですが、入学できれば費用は極端に抑えられるので、近隣に認定校があればチャレンジしてみるのも良いのではないでしょうか。
- 課題が多すぎてリタイアしてしまう
国際バカロレアは高水準の教育が受けられることで有名ですが、一方、課題の多さでも有名です。
前述したように、DPを履修し世界的に有名な国際バカロレア資格を取得すれば、海外進学に有利なのは間違いありません。
ですがDP過程は日々勉強に追われることになり、その厳しさのために途中でリタイアしてしまう生徒も少なからずいるようです。
まとめ
国際バカロレアは、グローバル社会を生き抜くための教育プログラムです。
そのプログラムを履修することで、学習者は豊富な知識の習得と確かな自己成長を遂げられます。また同時に社会との繋がりについても広く学び、内と外の両方へ働きかけを行う人間像を作り上げています。
国際バカロレアのDPの取得には、学習者自身が強い学習意欲を持っておかなければ到達できません。資格の取得も大切ですが、課題をやり遂げる過程も力になるでしょう。
国際バカロレア取得を目指す学習者さまたちに、この記事が参考になれば幸いです。