スマホやタブレットが当たり前になったお子さまの生活。ネットいじめや偽情報といった危険に、不安を感じている保護者の方もいるのではないでしょうか。
ただ利用を制限するだけでは、これからのデジタル社会を生き抜く力は育ちません。そこで今、世界で注目されているのが「デジタルシティズンシップ教育」です。
本記事では、デジタルシティズンシップ教育の定義やご家庭での実践方法を徹底解説します。
デジタルシティズンシップとは
デジタルシティズンシップとは、デジタル技術を通じて社会に関わり、責任ある行動を取る能力のことです。ネット上でルールを守るだけでなく、自分の意見を発信して社会課題の解決に参加する主体的な姿勢も含まれます。
デジタルシティズンシップを身につける場所は学校に限りません。家庭でスマートフォンの利用について親子で話し合ったり、地域の図書館でデジタル講座に参加したりと、日常生活のさまざまな場面で学べます。子どもが動画投稿サイトで環境問題について調べて自分なりの考えをまとめる、といった活動も含まれます。
デジタルシティズンシップ教育とは
デジタルシティズンシップ教育とは、デジタル社会における市民性を育む教育活動を指します。単にネット上のマナーやルールを教えるのではなく、子どもたちがデジタル技術を使いこなしながら、他者と協力して社会をより良くする方法を学ぶのが特徴です。
具体的には、オンラインで他者を尊重したコミュニケーションを取る力、情報の真偽を判断して適切に活用する力、セキュリティやプライバシーを守る知識などを身につけます。学校の授業や家庭での会話、地域のワークショップなど、あらゆる場面で実践できる内容です。
情報モラル教育との違い
情報モラル教育とは、ネット上で適切に行動するためのルールやマナーを子どもに教えることです。個人情報の保護や著作権の尊重など、トラブルを防ぐための知識を蓄えることに重点が置かれています。
デジタルシティズンシップ教育との大きな違いは、何を目指すかという点です。情報モラル教育が「問題を起こさない」ための指導であるのに対し、デジタルシティズンシップ教育は「デジタル技術で社会に参加する」ことまで視野に入れています。
例えば、情報モラル教育ではSNSでの炎上を避ける方法を学びますが、デジタルシティズンシップ教育ではSNSを使って地域課題の解決に取り組む方法も学びます。どちらか一方ではなく、安全を確保しながら積極的な社会参加を促す、両方のバランスが重要です。
ネットリテラシー教育との違い
ネットリテラシー教育とは、インターネット上の情報を正しく読み解き、適切に活用するための技能を育成する教育です。偽情報の見抜き方や検索エンジンの使い方、情報源の確認方法など、情報を扱う技術的なスキルを学びます。
デジタルシティズンシップ教育と違い、ネットリテラシー教育の目的は「情報を正しく扱う技術の取得」です。
例えば、ネットリテラシー教育ではニュース記事の信頼性を判断する方法を学びます。一方、デジタルシティズンシップ教育ではその情報をもとに意見を形成し、他者と対話して社会課題を解決することまでが求められます。ネットリテラシーは、デジタルシティズンシップを支える重要な要素の一つといえるでしょう。
GIGAスクール構想との関係
GIGAスクール構想とは、小中学校の児童生徒全員にパソコンやタブレットを配り、高速ネットワークを整えた上で教育の質の向上を目指す国の施策です。「Global and Innovation Gateway for All」を略した言葉で、一人ひとりに合わせた学習環境を実現することを目指しています。
この施策により、子どもたちは授業でも家庭学習でも端末を活用できるようになりました。しかし、端末があるだけでは十分ではありません。ネットいじめや誤情報の拡散など、新たな課題への対応が必要です。
そこで重要となるのがデジタルシティズンシップ教育です。端末を使って学習する中で、オンラインでのマナーや情報を見極める力や、自分の発信が他者に与える影響を考える姿勢を育てる必要があります。機器の整備と市民性教育を両輪で進めることが、GIGAスクール構想には欠かせません。
デジタルシティズンシップ教育のテーマ6つ
デジタルシティズンシップ教育には、6つのテーマがあります。これらは総務省が公開している「家庭で学ぶデジタル・シティズンシップ〜実践ガイドブック〜」で体系化されており、子どもたちがデジタル社会で健全に成長するための指針となっています。
- メディアバランスとウェルビーイング
- 対人関係とコミュニケーション
- デジタル足あととアイデンティティ
- セキュリティとプライバシー
- ニュースメディアリテラシー
- ネットいじめ・もめごと・ヘイトスピーチ
それぞれのテーマについて、具体的に見ていきましょう。
メディアバランスとウェルビーイング
メディアバランスとウェルビーイングでは、心身ともに健康で幸せな生活を送るために、メディアの利用と睡眠や食事、趣味、家族との時間などをバランスよく両立させることを扱います。デジタルメディアは私たちの生活にとって必要不可欠なものですが、長時間利用は心身の疲労や生活に影響を与える可能性があります。
最適なメディアの利用時間は一人ひとり違うため、子ども自身で利用計画を考え、一緒に「計画・実行・ふりかえる」ことが重要です。保護者自身もより良いメディアバランスを考え、子どもの善き手本となることが求められます。
対人関係とコミュニケーション
対人関係とコミュニケーションは、オンライン上で他者と良好な関係を築くためのテーマです。デジタルコミュニケーションは現代の子どもたちに欠かせないスキルです。トラブルを避けるために遠ざけるのではなく、適切に対処できる力を身につけさせる必要があります。
オンラインではちょっとした行き違いから衝突が起こりがちです。リスク判断やトラブル後の適切な対応ができるよう、まずは家族や学級内のグループなど、対面でもやりとりができる安全な場所で、小さな成功と失敗の経験を積み重ねることを促しましょう。
デジタル足あととアイデンティティ
デジタル足あととは、その人またはほかの人によって、意図的または意図せずに投稿された、人に関するオンラインのすべての情報のことです。デジタル足あとには、拡散性、他者性、永続性の3つの特徴があります。
インターネット上の情報は、コピーされて多くの人に見られるようになります。友人が投稿した情報も自分のデジタル足あとの一部となり、さまざまな方法で蓄積されて永久的に消えることはありません。子どもたちには、デジタル足あとの特徴について検討し、いったん立ち止まってから投稿するよう促すことが大切です。
セキュリティとプライバシー
セキュリティとプライバシーは、個人情報を守り安全にデジタル機器を使うためのテーマです。オンラインでのやりとりにおいて、知らない人には自分の名前や電話番号を教えないことが基本となります。
また、ソーシャルメディアのアカウント上で、公開範囲をどのように設定すればよいか、子どもと一緒に考えることも重要です。情報の内容によって非公開、グループ限定、公開などを使い分ければ、個人情報を適切に管理できます。
ニュースメディアリテラシー
ネット上の情報を正しく評価し、事実と意見を区別する力を育てるためのテーマが、ニュースメディアリテラシーです。SNSやニュースサイトには正確な情報もあれば、偽情報や偏った意見も混在しています。子どもには、情報源を確認する習慣を身につけさせることが重要です。
家庭では、ニュース記事を一緒に読みながら、「この情報は本当だろうか」と対話することが効果的です。情報を鵜呑みにせず批判的に考える力が求められます。
ネットいじめ・もめごと・ヘイトスピーチ
ネットいじめ・もめごと・ヘイトスピーチは、オンライン上での攻撃的な行動や差別的な発言に対処するためのテーマです。匿名性の高いネット空間では、現実以上に攻撃的な言動が起こりやすく、被害者も加害者も生まれやすい環境にあります。
子どもには、ネットいじめを見かけたら傍観せず、信頼できる大人に相談するよう教えます。また、自分が加害者にならないよう、相手を傷つける発言をしないことの大切さを伝えるのも大事です。家庭では、子どもが安心して相談できる関係を築くことが何より重要です。
デジタルシティズンシップの主な9要素
デジタルシティズンシップ教育には、体系的に整理された9つの要素があります。2019年にアメリカで刊行された「子どもの未来をつくる人のためのデジタル・シティズンシップ・ガイドブック for スクール」で明確に示されました。
- デジタル・アクセス
- デジタル・コマース
- デジタル・コミュニケーションと協働
- デジタル・エチケット
- デジタル・フルーエンシー(情報技術の活用)
- デジタル健康と福祉
- デジタル規範
- デジタル権利と責任
- デジタル・セキュリティとプライバシー
これらの要素からは、子どもたちに定められたルールを教えるのではなく、行動の善悪を自ら判断できるようにすることを目指しているのがわかります。アメリカでは、子どもたちのネット利用に関するトラブルに対し、ネットの利用制限を課す方法では解決できませんでした。
そこで生まれたのが、デジタルシティズンシップの考え方です。デジタル社会では子どもたちも立派な一員として扱われます。自分自身で考え、行動できるよう教育することが求められています。
日本におけるデジタルシティズンシップ教育の実践
日本では、総務省・文部科学省・内閣府が連携して、デジタルシティズンシップ教育の推進に取り組んでいます。それぞれの省庁がどのような施策を進めているのか、具体的に見ていきましょう。
総務省の取り組み
総務省は、ICTを活用した社会インフラの整備を担う省庁として、デジタルシティズンシップ教育を推進しています。2022年11月には「ICT活用のためのリテラシー向上に関する検討会」を立ち上げ、多様な関係者から意見を募りながら、インターネットに関わるリスクや教育上の課題を明らかにする取り組みを行ってきました。
文部科学省の取り組み
文部科学省は、GIGAスクール構想を土台にデジタルシティズンシップ教育への取り組みを進めています。1人1台端末の整備に伴う授業例や教員研修の方向性を示した資料を公開し、学習指導要領の改訂では情報活用能力を横断的な学習の基盤と位置づけました。学校現場では情報モラルとデジタルシティズンシップを関連させたプログラムが広がっています。
内閣府の取り組み
内閣府は「Society 5.0の実現に向けた教育・人材育成に関する政策パッケージ」を通じて、デジタルシティズンシップ教育を推進しています。次期学習指導要領の改訂に向けた検討では、高度情報社会において子どもたちが自ら学び創造的に活動できる力の育成を重視し、デジタルシティズンシップ教育を優先課題としています。
家庭で学べる実践例
総務省の「家庭で学ぶデジタル・シティズンシップ~実践ガイドブック~」には、保護者と子どもが一緒に取り組めるワークシートが掲載されています。SNSを利用する際のルールづくりや、オンラインでのコミュニケーションマナーなど、日常生活に即したテーマを親子で話し合いながら学べる内容です。
また「家庭で学ぶデジタル・シティズンシップ~保護者向けワークショップ~」では、地域や学校で開催できる研修プログラムの進め方が紹介されており、デジタル・シティズンシップについて対話の機会を持つサポートをしています。
日本におけるデジタル・シティズンシップ教育の課題
日本のデジタルシティズンシップ教育は、「デジタルデバイド」という情報格差の問題に直面しています。デジタルデバイドとは、年齢・地域・インターネット環境などの違いによって生じる情報技術へのアクセスや活用能力の差のことです。
特に深刻なのが、学校と家庭の間で生じる格差です。学校では1人1台端末が整備される一方、家庭のICT環境や保護者の理解度には大きな差があります。健康被害や依存を懸念して子どものICT利用に否定的な意見を持つ保護者も少なくありません。
さらに、デジタル機器が身近な環境で育った子どもと、成人後にICTに触れた教員・保護者との間には世代間の格差も存在します。
学校・家庭間の環境差と世代間の理解度の差、この2つの情報格差を解消し、連携できる環境を整えることが求められているのです。
海外におけるデジタルシティズンシップ教育の実践
海外では、個人の道徳問題としてではなく、より良い社会の構築を目指して責任あるデジタル技術の活用を促す教育が実践されています。
例えばアメリカでは、非営利団体Common Sense Educationが開発した教材「コモン・センスエデュケーション」が60,000校以上で活用されています。ハーバード大学大学院の研究機関が2010年から開発に携わったこの教材は、幼稚園児から高校3年生までが対象です。
インターネットの安全な使い方やパスワード作成方法から、SNSでの人間関係やプライバシー保護などのデジタルジレンマまでを題材に、子どもたちが自分で考え判断する力を育てる内容となっています。
まとめ
デジタルシティズンシップ教育は、子どもがデジタル社会で責任ある行動を取り、社会に貢献する力を育む重要な取り組みです。単にネットのルールを教えるだけでなく、技術を積極的に活用し、課題解決に参加できる主体性を養います。GIGAスクール構想で端末が普及する今、家庭と学校が連携してこの教育を進めることが不可欠です。
OWIS(One World International School)では、未来を見据えた先進的な教育の一環として、デジタルシティズンシップの育成にも力を入れています。生徒用にiPadとMacBookを用意し、3Dプリンターなどを活用した学習環境も完備。さらに、プログラミングとロボット工学の授業を通じて、子どもたちがテクノロジーを創造的に使いこなし、グローバル社会で活躍できる力を育んでいます。OWISの教育について詳しく知りたい方は、こちらをご覧ください。


