子どもの英語教育について調べていると、イマージョン教育という言葉をよく見かけます。英語を教科として習う方法と何が違うのかは、名前だけでは分かりにくいものです。本記事では、イマージョン教育の意味や種類、メリットとデメリットを解説します。
イマージョン教育とは?
イマージョン教育とは、算数や理科といった教科を外国語で教え、子どもの語学力を自然に育てる教育法です。外国語を1つの教科として教えるのではなく、その言語を使って別の教科の指導を行うのが特徴で、バイリンガル教育の1つにあたります。
イマージョン(immersion)は英語で「浸すこと」や「没入」を意味します。水に体を沈めるように、子どもが外国語の環境に浸るところから名前がつけられました。イマージョン・プログラムとも呼ばれています。
日本の小学校であれば、算数も理科も英語で進み、先生や友達とのやり取りも英語です。子どもは学校生活そのものを英語で過ごすため、覚えた言葉をすぐ使う場面が毎日生まれます。
カナダ発祥、世界へ広がった背景
イマージョン教育は、1965年にカナダのケベック州セント・ランバートで始まりました。フランス語圏で暮らす英語話者の保護者が、学校を出てからも通用するフランス語を子どもに身につけてほしいと考え、幼稚園のクラスを立ち上げたのが最初です。
教科をフランス語で教える試みが成果を上げ、カナダ全土からアメリカへ広がりました。いまでは世界各地の学校で取り入れられています。
日本では1992年、静岡県沼津市の加藤学園暁秀初等学校が最初に導入しました。算数・理科・生活科などを英語で学び、1日の学校生活の50%以上を英語で過ごします。公立小学校では、愛知県の豊橋市立八町小学校が2020年度にイマージョン教育コースを全学年に設け、国語と道徳以外の教科を英語で行っています。
参照:ミネソタ大学CARLA「What the Research Says About Immersion」/加藤学園暁秀初等学校「イマージョン・プログラム」/豊橋市立八町小学校「イマージョン教育とは」
イマージョン教育の種類
イマージョン教育は、いつ始めるか、どれだけ英語を使うか、どんな子どもが集まるかという3つの軸で分類されます。
軸 | 種類 | 何が違うか |
導入時期 | 早期/中期/後期 | 外国語で教科を学び始める学年 |
言語の使用割合 | 完全/部分 | 授業のうち外国語が占める割合 |
手法 | 一方向/双方向 | 教室に集まる子どもの母語(生まれて最初に覚えた言語)が同じか異なるか |
導入時期による分類
外国語で教科を学び始める学年によって、早期・中期・後期の3つに分かれます。早期は幼稚園の年長から小学1年ごろ、中期は小学4年ごろ、後期は小学6年から中学1年ごろに始めるのが目安です。
カナダやアメリカで長く行われてきたのは、小学校の最初の学年から入る早期イマージョンでした。後期イマージョンでは、先に母語での授業を受けたうえで、2年間ほど授業の100%を第二言語に切り替える進め方も取られてきました。
始める時期が違っても、最終的な第二言語の習熟度に大きな差は出にくいと報告されています。入学のタイミングを逃したと感じても、途中から入る道は残されています。
参照:カナダ・マニトバ州教育省「French Immersion Program」/ミネソタ大学CARLA「Types of Immersion Education: An Introduction」
言語使用割合による分類
授業のうち外国語が占める割合で、完全イマージョンと部分イマージョンの2つに分かれます。完全イマージョンでは、幼稚園の年長と小学1年にあたる2年間、授業の100%を第二言語で行うのが元々のやり方でした。母語の読み書きが加わる小学2年で80%まで下がり、小学5〜6年ごろには50%前後に落ち着きます。
部分イマージョンの場合、第二言語の割合は小学校の6年間を通して50%前後です。日本の学校で行う際は、読み書きは日本語と英語の両方で教え、2人の教員が言語を分けて担当する学校もあります。
2つを比べると、完全イマージョンで学んだ子どものほうが、読む・書く・聞く・話すのどの力でも高い水準に届くという調査結果が出ています。学校を選ぶときは、第二言語が何割を占めるのかを確かめておきたいところです。
参照:ミネソタ大学CARLA「Types of Immersion Education: An Introduction」
手法による分類
クラスに母語が同じ子どもだけが集まるのか、違う言語で育った子どもが混ざるのかで、一方向イマージョンと双方向イマージョンに分かれます。日本語だけを話して育った子どもばかりが集まり、全員が英語で教科を学ぶ場合は一方向イマージョンです。
双方向イマージョンは、アメリカのフロリダ州で生まれました。英語を話して育った子どもと、英語以外の言語を母語とする子どもが同じ教室で学ぶ形式で、英語以外の言語で育った子どもが全体の25〜50%を占めます。どちらのグループもバイリンガルになり、互いに良い関係を築くことが目標です。
参照:ミネソタ大学CARLA「Types of Immersion Education: An Introduction」
イマージョン教育のメリット
日本でイマージョン教育を受けるメリットとして、以下の4つが挙げられます。
- 英語で考える力が自然に身につく
- 教科の勉強と英語の習得が同時に進む
- 認知能力・思考力の発達につながる
- 多様性への理解と国際感覚が育まれる
それぞれ詳しく解説します。
英語で考える力が自然に身につく
日本でイマージョン教育を受けた子どもは、英語を日本語に置き換えずにそのまま理解するようになります。英語を聞いて英語で返す回数が増えれば、日本語に訳す手間はいりません。
ミネソタ大学の研究センターの報告によると、イマージョン教育を受けた子どもは聞く力と読む力がネイティブに近い水準に届き、第二言語で学ぶ時間が長いほど語学力も高くなるとされています。英語で考える力がつけば、学年が上がって内容が難しくなっても、英語のまま理解を進めることができます。
参照:ミネソタ大学CARLA「What the Research Says About Immersion」
教科学習と語学習得が同時に進む
算数や理科を英語で行う授業では、教科の力と英語の力が一緒に伸びます。計算の考え方を英語で聞き、実験の手順を英語で読み、自分の答えも英語で書く毎日です。英語の授業を週に数回受けるだけの学校と比べると、英語に触れる量はまったく違います。
学力が下がるのではないかという心配には、長年の研究が答えを出しています。母語が英語の子どもがイマージョン教育を受けた場合、読解と算数の標準テストで、通常の学級の子どもと同じかそれを上回る成績を収めてきました。家庭の経済状況や学習の得意不得意にかかわらず、同じ結果が確認されています。
参照:ミネソタ大学CARLA「What the Research Says About Immersion」
認知能力・思考力の発達につながる
英語と日本語を使い分けて育つと、集中して考える力も一緒に育ちます。どちらの言葉で話すかを毎日選び続けるうちに、必要な情報だけに注意を向ける習慣が身につきます。
研究でも、答えが1つに決まらない問題やまぎらわしい情報が混じった問題で、バイリンガルの子どもが力を発揮すると報告されました。ただし、伸びが確認されているのは2つの言語をどちらも十分に育てた場合です。英語の時間を増やすだけでなく、日本語も並行して育てることが不可欠です。
参照:ミネソタ大学CARLA「What the Research Says About Immersion」
多様性への理解と国際感覚が育まれる
英語で学ぶ教室には、国籍や母語の違う子どもと教員が集まります。自分と違う習慣や考え方に触れる機会が日々のやり取りの中で増えるのも、イマージョン教育の特徴です。
英語でも日本語でも会話できるようになると、言葉が通じる相手が一気に増えます。読む本や見る映像の幅も広がり、進学や就職で海外と関わるときにも生きてきます。
イマージョン教育のデメリットと注意点
イマージョン教育を選ぶ前に、知っておきたい注意点が3つあります。
- 日本語力の発達に影響が出ることがある
- 学費が高くなりやすい
- 家庭でのサポートが求められる
対策と併せて、1つずつ見ていきましょう。
日本語力の発達に影響が出ることがある
英語で学ぶ時間が増えると、日本語の読み書きが一時的に遅れる場合があります。カナダやアメリカの調査では、つづりや句読点、語彙などで通常の学級の子どもに後れを取る時期が確認されました。
ただし、それも長くは続きません。国語にあたる授業が始まって1年か2年で差は消えたと報告されています。
注意したいのは、学年が上がって学習内容が抽象的になる時期です。考える力の発達に英語の力が追いつかないと、理解が浅いまま進む心配が出てきます。
対策は2つです。学校を選ぶ段階では、国語の授業が週に何時間組まれているかを確認しておくと、日本語をどれだけ大切にしている学校かが見えてきます。入学後は、家庭で日本語の本を読んだり、学校であったことを日本語で話したりする時間を取ることも大切です。
参照:ミネソタ大学CARLA「What the Research Says About Immersion」
学費が高くなりやすい
イマージョン教育を取り入れている学校は私立やインターナショナルスクールが中心で、公立より費用がかかります。文部科学省の令和5年度子供の学習費調査によると、小学校1年間の学習費総額は公立が約36万7,000円、私立が約174万2,000円でした。
中学以降も同じ環境で学ばせたい場合は、12年分の見通しも必要です。同じ調査では、小学校6年間の学習費の合計が公立で約220万円、私立で約1,046万円でした。入学前に総額を出しておくと、途中で通えなくなる事態を避けることができます。
文部科学省「令和5年度子供の学習費調査」
家庭でのサポートが求められる
2つの言語で学ぶ環境では、家庭でどれだけ学習を支えるかが極めて大きな影響をもたらすと指摘されています。
対策の1つは、英語に触れる時間を家庭でも意識して作ることです。英語の絵本を一緒に読む、英語の動画を見る、宿題に目を通すといった関わり方ができるでしょう。
参照:ミネソタ大学CARLA「What the Research Says About Immersion」
小学校でイマージョン教育を実践できる環境とは?
イマージョン教育を実践している小学校には、公立小学校・私立小学校・インターナショナルスクールの3つがあります。英語で学ぶ範囲と確かめたい点は、以下のとおりです。
学校の種類 | 英語で学ぶ範囲 | 確かめたいこと |
公立小学校 | 国語と道徳以外を英語で行う例がある | 通学できる範囲に実施校があるか、入級の条件は何か |
私立小学校 | 学校ごとに英語の割合が異なる | 英語と日本語の時間配分、コースの募集時期、中学以降の進み方 |
インターナショナルスクール | 授業も学校生活も英語 | 日本語や国語の扱い、英語が初めての子どもへの指導、卒業生の進学先 |
公立小学校でイマージョン教育を実施するには、文部科学省から教育課程特例校の指定を受ける必要があります。実施校はまだ数えるほどで、通学できる範囲にあるかどうかが分かれ目です。私立小学校は英語で学ぶコースを置く形式が多く、英語の割合は学校ごとに違います。インターナショナルスクールでは、授業はもちろん、休み時間などの学校生全体が英語で進みます。
どの学校を選ぶ場合も、確認しておきたいのは英語の割合と日本語の扱い、そして教員の配置です。英語が初めての子どもにどんな指導があるかは、学校説明会や見学で聞くことができます。
OWIS(One World International School)の大阪校とつくば校に通うのは、5歳から12歳までの子どもです。国際バカロレア(IB)のPYP(初等教育プログラム)認定候補校として、探究型の授業を英語で行っています。
イマージョン教育は子どもの可能性を広げる学び
イマージョン教育は、算数や理科などの教科を英語で教え、子どもの語学力を伸ばす教育法です。1965年にカナダで始まり、日本でも私立小学校やインターナショナルスクール、一部の公立小学校へ広がってきました。
英語で考える力が育ち、教科の勉強と英語の習得が同時に進む一方で、日本語の育成や教育費用、家庭での関わり方は入学前に考えておきたいところです。
英語の割合も日本語の扱いも学校ごとに違うため、気になる学校は実際に見てから決めると、家庭の方針に合うかどうかが分かります。
OWISは、大阪市生野区と茨城県つくば市にキャンパスを置くインターナショナルスクールです。幼稚部から高等部の3歳から18歳までの子どもが英語イマージョンの環境で学びます。英語が初めての子どもにはアカデミック・イングリッシュ・プレパレーション(AEP)という専用のプログラムがあり、英語の経験がない状態からでも授業に参加できます。
授業の様子や先生の関わり方は、大阪校とつくば校それぞれの学校説明会や見学で確かめてみてください。
よくある質問
イマージョン教育に関するよくある質問にお答えします。
「イマージョン」とはどういう意味ですか?
イマージョン(immersion)とは、英語で「浸すこと」や「没入」を表す言葉です。水に体を浸すように、子どもを英語環境に置くことから、教育法の名前として使われるようになりました。
イマージョン教育とCLIL(クリル)の違いは?
どちらも外国語で他の教科を学ぶ教育法ですが、目的と教え方が違います。イマージョン教育は外国語だけで授業を進め、教科を学ぶうちにその言語が自然と身についていきます。CLIL(内容言語統合型学習)の目的は、教科の理解と外国語習得の両方です。言語指導も計画的に行いながら、覚えてほしい語彙や表現を授業の中で意識的に扱います。


